苫小牧港と石狩港はどう違う?北海道の二大港を考察!
北海道には港湾が三十以上ありますが、その取扱貨物量のうち半分以上をたった一つの港が扱っています。それが苫小牧港で、令和5年の取扱貨物量は約1億128万トン、全道シェアはおよそ54.5パーセントに達します。
いっぽうで、札幌市の目と鼻の先にも大きな港があります。石狩湾新港です。検索窓に「石狩港」と打ち込む人の多くは、この石狩湾新港を思い浮かべています。ところが石狩港という名前の港は、石狩湾新港とは別に実在します。
北海道は大自然の島だという印象は半分正しく、残りの半分では日本有数の物流の島でもあります。この記事では苫小牧港と石狩港の違いを数字で並べ、なぜここまで差がついたのかという理由まで踏み込みます。
- 苫小牧港と石狩港の取扱貨物量や港格がどれだけ違うか
- 石狩港と石狩湾新港が別の港として存在している理由
- 札幌からの距離で見ると二港の立場が入れ替わること
- 苫小牧港が道内最大の港になった地理と歴史の背景
苫小牧港と石狩港の違いを数字で見る
感覚ではなく数字で二つの港を並べます。取扱貨物量、港としての格付け、札幌からの距離、そして扱っている荷物の中身。この四つを見るだけで、同じ北海道の港という言葉でひとくくりにするのが乱暴だと分かります。
そもそも石狩港と石狩湾新港は別物
石狩港で検索した人が実際に見たいのは、ほぼ確実に石狩湾新港のほうです。石狩湾新港は小樽市と石狩市にまたがる港湾で、港湾法上の重要港湾、港則法上の特定港に指定されています。液化天然ガスの受け入れ、韓国とのコンテナ航路、リサイクル資材の積み出しなど、札幌圏の物流とエネルギーを支える現役の大型港です。
ところが北海道開発局の港湾概要には、これとは別に石狩港という港が掲載されています。所在地は石狩湾沿岸の中央部、石狩川の河口。港格は地方港湾で、昭和28年に地方港湾へ指定された当時の取扱貨物量は1万4千トンでした。中身は水産物と木製品の移入が中心です。
つまり石狩には、川の河口にできた古い石狩港と、海岸線を掘り込んで造った新しい石狩湾新港という二つの港が存在します。名前が似ているため混同されやすく、地図アプリで石狩港と入力すると石狩湾新港の埠頭あたりに案内されることも珍しくありません。
この記事でも以降は、実質的な比較対象になる石狩湾新港を石狩港側として扱い、河口の旧石狩港については後半でまとめて取り上げます。同じ地名を持つ二つの港が、四十年ずれて主役を交代したという構図が、この土地の面白さです。
取扱貨物量は苫小牧港が18倍以上
苫小牧港の令和5年の取扱貨物量は約1億128万トンです。北海道全体のおよそ54.5パーセントを一港だけで占めており、全国順位でも名古屋港、千葉港に次ぐ第3位に位置します。年ごとの細かい増減は苫小牧港管理組合の港湾統計で公表されています。
対する石狩湾新港は、北海道開発局の集計で令和4年の取扱貨物量が5,449千トン。内訳は外貿が3,514千トン、内貿が1,936千トンです。前年の令和3年は6,231千トンでしたから、この1年で13パーセントほど減った計算になります。
年次が1年ずれる点を割り引いても、両者の開きはおよそ18倍。桁が二つ近く違うという表現がふさわしい差です。北海道の港というくくりの中で、苫小牧港だけが別の階層にいます。
ただしコンテナに限れば話が変わります。石狩湾新港は外貿コンテナの取扱量で道内第2位につけており、平成9年に韓国の釜山港との定期コンテナ航路を開設して以来、札幌圏の輸出入の窓口として機能してきました。総量では大差でも、機能の面では置き換えのきかない港です。
港格は国際拠点港湾と重要港湾で違う
日本の港には港湾法にもとづく格付けがあります。上から国際戦略港湾、国際拠点港湾、重要港湾、地方港湾という順です。苫小牧港は国際拠点港湾、石狩湾新港は重要港湾、そして河口の旧石狩港は地方港湾。三つとも階層が違います。
国際拠点港湾は全国で18港しかなく、北海道では苫小牧港と室蘭港の2港だけが該当します。国際海上輸送網の拠点として国が重点的に整備する対象で、予算の付き方も計画の立て方も他の階層とは別枠です。
重要港湾は全国で百港を超え、北海道にも二十港以上あります。石狩湾新港の概要によると、昭和48年に重要港湾へ指定され、昭和57年に東ふ頭の木材岸壁へ第一船が入港、正式な開港は平成6年6月10日でした。港としてはまだ三十年ほどの若さです。
港格は序列であると同時に、役割分担の宣言でもあります。国が苫小牧港に国際航路と本州航路の拠点を割り当て、石狩湾新港に札幌圏の内需とエネルギーを割り当てた。その設計思想の差が、そのまま今日の数字に表れています。
札幌からの近さでは石狩港側が勝つ
ここで二港の立場が入れ替わります。石狩湾新港から札幌市の中心部までは約15キロメートル、車でおよそ30分です。都心のオフィス街を出て30分走れば、コンテナ船と洋上風車が並ぶ岸壁に着きます。
苫小牧港はというと、札幌中心部から約70キロメートル離れており、道央自動車道を使っても1時間前後かかります。距離にすれば石狩湾新港の4倍以上です。道内最大の港は、道内最大の都市からいちばん遠いわけではないものの、決して隣接はしていません。
この近さは石狩湾新港の存在理由そのものです。北海道の人口ランキング、なぜ札幌に集中するか考察!で触れたとおり、道内の人口はきわめて札幌圏に偏っています。その最大の消費地に直結し、輸入した貨物を最短距離で店頭へ運べる港を、国は札幌のすぐ隣に用意しました。
港湾の背後に広がる石狩湾新港地域には、食品、物流、リサイクル、エネルギーの企業が集積しています。都心から30分で外貿港に着き、そこから30分戻れば地下街と高層ビルが並ぶ。都市機能と港湾機能がこれだけ近い場所は全国的にも多くありません。
この近接距離は、観光で北海道を訪れる人の視界にはほとんど入ってきません。空港から観光地へ向かう動線と、港から市街地へ向かう物流の動線が、ほとんど交わらないためです。同じ石狩湾に面した小樽は運河と倉庫群で知られていますが、その東隣で稼働している新港の姿は、観光の文脈でまず語られません。
ただし数字の上では、この見えない30分こそが札幌の暮らしを支えています。輸入されたガスは都市ガスとして各家庭に届き、コンテナで運ばれた雑貨は市内の店頭に並びます。北海道の都会感を距離で測るなら、空港からの所要時間と同じくらい、港からの所要時間を見る価値があります。
二港の比較表と主要貨物の違い
ここまでの数字を一枚の表にまとめます。年次がそろわない項目については、それぞれの出典が公表している年をそのまま添えました。
| 比較項目 | 苫小牧港 | 石狩湾新港 |
|---|---|---|
| 港格 | 国際拠点港湾 | 重要港湾 |
| 取扱貨物量 | 約1億128万トン(令和5年) | 約545万トン(令和4年) |
| 道内での位置づけ | 全道シェア約54.5パーセント | 外貿コンテナで道内第2位 |
| 札幌中心部からの距離 | 約70キロメートル | 約15キロメートル |
| 整備の由来 | 世界初の内陸掘込港湾 | 昭和48年指定 平成6年開港 |
| 際立つ設備 | 本州航路のフェリー基地 | 石狩LNG基地と洋上風力 |
荷物の中身も見ておきます。北海道開発局が示す令和4年の石狩湾新港の主要品目は、外貿輸出が金属くずと再利用資材と水産品、外貿輸入が液化天然ガスとその他の石油と再利用資材です。内貿では砂利や砂、液化石油ガスの移入が上位に並びます。
苫小牧港側は、背後の苫小牧東部地域に石油備蓄基地や製紙工場が立地し、本州とを結ぶフェリーとRORO船が集中する構造です。二港の品目はほとんど競合しておらず、北海道の中で市場を奪い合っているわけではありません。規模の差は勝ち負けではなく役割の差だという見方が実態に近いです。
苫小牧港と石狩港の差が生まれた理由
ここからは種明かしです。18倍という開きは偶然でも努力量の差でもなく、地形、方角、産業政策、そして道路網という四つの条件が積み重なった結果です。順に見ていきます。
世界初の掘込港湾が生んだ用地の余裕
苫小牧港は天然の湾を利用した港ではありません。太平洋に面した平坦な砂浜を内陸へ掘り込んで造った、世界初の内陸掘込港湾です。海岸線の形に縛られないため、必要になった分だけ内側へ水面を延ばしていけます。この成り立ちは苫小牧港は埋め立てじゃない?世界初の掘込港湾を考察!で詳しく取り上げています。
この方式の効き目は、港そのものよりも背後地に出ます。掘り込んだ土砂で造成した平地がそのまま産業用地になり、岸壁のすぐ裏に工場と倉庫を置けます。苫小牧東部地域には広大な工業用地が確保され、石油備蓄や製紙、自動車関連の拠点が次々と集まりました。
石狩湾新港も掘込と埋立を組み合わせて造られていますが、背後に控える面積の桁が違います。港の規模は岸壁の長さだけで決まるものではなく、その裏にどれだけ荷物と工場を置けるかで大きく左右されます。最初の差はここでつきました。
掘込という工法は、自然の地形に恵まれなかった土地が採った逆転の一手でもあります。良港に向いた入り江がなかったからこそ、地形そのものを設計対象にした。北海道の物流の中心は、自然が用意した場所ではなく人が引いた線の上にあります。
太平洋側という本州航路の地の利
北海道と本州を結ぶ貨物は、その大半が海を渡ります。苫小牧港が面するのは太平洋で、仙台、名古屋、大洗、八戸、敦賀といった本州側の港へ定期航路が伸びています。フェリーとRORO船が毎日のように往復し、トラックがそのまま船に乗り込む形で本州へ抜けていきます。
この構造は貨物量を機械的に積み上げます。船に載ったトラック1台ぶんの積荷も統計上の取扱貨物量に計上されるため、定期航路の本数と便数がほぼそのまま港の規模につながります。苫小牧港の1億トンという数字は、巨大なタンカーだけで作られているわけではありません。
石狩湾新港が面するのは日本海です。本州の日本海側とのあいだに航路を持つことはできますが、東京や名古屋といった巨大消費地へ向かうには津軽海峡を回るか、陸路で南下する必要があります。同じ北海道の港でも、どちらの海に顔を向けているかが最終的な取扱量を決めました。
冬の条件も無視できません。日本海側は季節風による波浪が強く、荷役を止める日が太平洋側より増えます。太平洋側の苫小牧も凍らない港ではあるものの、通年の稼働率という点で日本海側は不利を背負っています。
方角の効果は、港の背後にある鉄道と高速道路にも及びます。苫小牧は札幌と本州航路を結ぶ線上に位置し、道央自動車道と日高自動車道、そして貨物列車の経路が港の近くで束ねられています。船から降ろした荷物を道内各地へ散らす経路が、最初から用意されている状態です。
結果として苫小牧港は、北海道の内陸で生産された農産物や木材を本州へ出し、本州から届いた工業製品や日用品を道内へ配る二方向の関所になりました。港の規模を決めるのは水深や岸壁だけではなく、その先につながる陸のネットワークだという点が、二港の比較からはっきり読み取れます。
石狩湾新港が選んだエネルギーの道
石狩湾新港は貨物量の競争から降りたわけではありませんが、この十数年で明確にエネルギー拠点へ舵を切りました。2012年に石狩LNG基地が運転を開始し、北海道の都市ガス供給を支える中核設備になっています。
2018年には北ガス石狩発電所、2019年には石狩湾新港発電所が営業運転に入りました。そして2024年1月1日、石狩湾新港洋上風力発電所が商業運転を開始しています。単機出力8,000キロワットの風車を14基、合計112,000キロワット。国内最大規模の商業用洋上風力発電所です。
札幌の都心から車で30分の海に、日本最大級の洋上風車が十四本並ぶ。大自然の北海道という言葉から最も遠い風景が、道都のすぐ隣に組み上がりました。トン数では苫小牧港に遠く及ばなくても、電気とガスという別の単位で北海道を支えています。
港の価値を取扱貨物量だけで測ると、この転換は見えてきません。石狩湾新港の存在理由は、荷物の重さではなく機能の集積へと移りつつあります。北海道で栄えてる市はどこか調査!で見た札幌一極集中の構図は、港の使い分けにもそのまま投影されています。
石狩川河口の旧港が消えていった理由
ここからは、名前だけが残った旧石狩港の話です。石狩川の河口に位置するこの港は、昭和28年に地方港湾へ指定されました。当時の取扱貨物量は1万4千トンで、水産物と木製品の移入が中心でした。川と海がつながる場所に荷揚げ場を置くのは、鉄道も道路も未整備だった時代には合理的な選択でした。
昭和34年に港湾修築事業が始まりますが、その事業は昭和48年で終わっています。北海道開発局の説明は簡潔です。
道路網の整備によって、取扱貨物量は激減し、石狩湾新港の建設が推進されたことから昭和48年をもって修築事業が終了している
道路が通れば、川の河口でわざわざ荷を積み替える理由は消えます。同時に、すぐ西の海岸線では札幌圏のための新しい港の建設が動き出していました。旧石狩港は平成12年にあらためて地方港湾へ変更指定され、いまも港湾としての籍は残っています。
北海道の港の勢力図は、自然の地形よりも道路と産業政策によって書き換えられてきました。石狩港という名前が実質を失っていく過程は、その典型例です。イメージのなかの北海道は手つかずの自然に見えますが、実際にはインフラの引き直しが絶えず起きている土地です。
苫小牧港と石狩港のよくある質問
ここまでの内容と重ならない範囲で、二港について検索されやすい疑問を四つ取り上げます。
石狩港と石狩湾新港は同じ港ですか
別の港です。石狩港は石狩川河口の地方港湾、石狩湾新港は小樽市と石狩市にまたがる重要港湾で、指定年も港格も異なります。日常会話やニュースで石狩の港と呼ばれるのは、ほぼ石狩湾新港のほうです。
石狩湾新港からフェリーに乗れますか
石狩湾新港は貨物とエネルギーが中心の港で、本州とを結ぶ定期旅客フェリーの発着は担っていません。北海道側の旅客フェリーの窓口は、日本海側が小樽港、太平洋側が苫小牧港という分担になっています。
苫小牧港と石狩湾新港はどちらが観光向きですか
景色の性格が違います。苫小牧港はフェリーターミナルや市場があり、旅の出入口として立ち寄りやすい港です。石狩湾新港は工業とエネルギーの現場で、洋上風車やLNGタンクが並ぶ産業景観を見に行く場所という位置づけになります。
北海道でほかに大きな港はどこですか
取扱貨物量では苫小牧港が突出していますが、室蘭港も国際拠点港湾に指定されています。ほかに函館港、釧路港、小樽港なども重要港湾として機能しており、それぞれ漁業、飼料穀物、旅客といった強みを持っています。
苫小牧港と石狩港の違いのまとめ
苫小牧港と石狩港の違いを、あらためて整理します。取扱貨物量では苫小牧港が令和5年に約1億128万トン、石狩湾新港が令和4年に約545万トンで、その差はおよそ18倍。港格も国際拠点港湾と重要港湾で階層が分かれています。
いっぽう札幌中心部からの距離では、石狩湾新港が約15キロメートルで車30分、苫小牧港は約70キロメートルで1時間前後と、完全に逆転します。そして石狩港という名前そのものは、石狩川河口の地方港湾として別に存在し、道路網の整備とともに実質を新港へ譲りました。
この差を生んだのは、掘込港湾が用意した広大な背後地、太平洋という方角がもたらした本州航路、日本海側の冬の条件、そして札幌圏の消費地に寄り添うという選択でした。大自然の島という印象は半分正しく、残りの半分は設計され続けてきた産業インフラの島です。
都心から30分の海に国内最大級の洋上風車が並び、そこから70キロ南東では日本第3位の港が動いている。北海道の都会感は、こういう距離の詰まり方に宿ります。苫小牧港と石狩港という二つの名前は、その落差を測るのにちょうどよい物差しです。

