旭山動物園といえば、北海道の広い自然のただ中で、よそでは見られない珍しい動物に会える場所という印象があります。その印象は半分だけ正しく、実際の園は旭川駅から約11.3km、路線バスで約40分という市街地のすぐ隣にあります。

そのうえ園の公式サイトは、旭山動物園の特徴を問われて「珍しい動物はいないこと、動物が生き生きしていること」と自ら説明しています。ここにしかいない動物を探しに行った人は、園そのものから正反対の答えを返されることになります。

それでもこの園でしか出会いにくい動物は、たしかに存在します。鍵を握るのは珍獣の数ではなく、北海道という土地そのものです。私がこの記事で追いかけるのは、その入れ替わりの正体です。

  • 旭山動物園にしかいない動物という問いに、園の公式がどう答えているか
  • 珍しさではなく見せ方で勝負するようになった経緯と入園者数の推移
  • シマフクロウやエゾシカなど、北海道の在来種を見せる園内施設の中身
  • 訪れる前に押さえておきたいアクセスと入園料の見通し

旭山動物園にしかいない動物はいる?

最初に結論から整理します。種名を1つ挙げて「これは旭山動物園にしかいない動物です」と示すやり方は、この園ではうまくいきません。園が積み上げてきた強みが、そもそも別の場所にあるからです。

ここでは公式の説明と、開園から現在までの数字をたどりながら、その理由を追います。

旭山動物園の独自性を4つに分けた比較図

公式が認める「珍しい動物はいない」

旭川市が運営する旭山動物園は、公式サイトのQ&Aで来園者からの質問に答えています。そのなかで、ほかの動物園との違いを問われた項目に対する回答が「珍しい動物はいないこと、動物が生き生きしていること」という一文です。運営者自身が、珍しさで戦っていないと表明していることになります。

飼育している動物の数についても、公式は「だいたい100種類、650点くらい」と説明しています。日本の主要な動物園と比べて突出して多い数字ではありません。出生や死亡によって数は常に動くため、園はあえて概数で答える形をとっています。

動物の入手方法についても率直です。野生の動物をつかまえてくることはせず、ほかの動物園から譲り受けたり借りたりするほか、動物商から購入することもあると明記されています。世界中から希少種を集めてくる路線とは、はっきり違う立ち位置です。

つまり「旭山動物園にしかいない動物」を種名で探すと、園の設計思想とすれ違ってしまいます。探すべき対象は、動物そのものではなく、動物の置かれ方のほうです。

行動展示という旭山だけの見せ方

旭山動物園は昭和42年、つまり1967年7月1日に開園した市立の動物園です。敷地面積は151,998.56平方メートル、標高は170mで、公式には日本最北の動物園と位置づけられています。北海道旭川市東旭川町倉沼という住所からも分かるとおり、山を背にした立地です。

この園が全国に名前を知られるきっかけになったのが、1997年から力を入れてきた行動展示です。動物を檻の中に静かに並べるのではなく、その動物が本来もっている動きを引き出す構造の施設をつくり、来園者にその動きを見せるという考え方をとっています。

ぺんぎん館の水中トンネルや、あざらし館の円筒水槽、猛獣が高いところから見下ろす構造の展示は、この考え方を形にしたものです。同じ種類の動物がほかの動物園にいても、泳ぐ姿を真下から見上げる体験までは持ち帰れません。

この転換は、施設をひとつずつ作り替える作業とセットで進みました。動物ごとに構造を設計し直す必要があるため、1つの施設が形になるまでに数年かかります。ぺんぎん館やあざらし館のような目玉だけでなく、えぞひぐま館が2022年7月に開いたように、園の更新はいまも続いています。全体が一度に完成する種類の施設ではありません。

ここに「ここだけ」の正体があります。旭山動物園が独占しているのは希少な種ではなく、その動物をどう見せるかという設計です。動物の名前ではなく、動物と来園者の距離のとり方が、この園の資産になっています。

国内初の繁殖記録が語る実力

見せ方だけの園ではないという点も押さえておく必要があります。旭山動物園は、1974年にホッキョクグマの繁殖に国内で初めて成功しています。1991年にはアムールヒョウの繁殖でも国内初の記録を残し、コノハズクでも同じく国内初の成功例が知られています。

繁殖の成功は、飼育環境と個体管理の質がともなわないと起こりません。派手さのない部分に技術が蓄積されていることを示す指標として、この記録は重い意味をもっています。

入園者数の推移も、この園の歩みを端的に語ります。1996年には年間およそ26万人まで落ち込み、閉園が現実味を帯びた時期がありました。そこから行動展示への転換を経て、2007年度には307万人という数字に到達しています。10年ほどで10倍を超える伸びです。

その後は落ち着き、令和元年度には137万8900人となりました。ピークからは減っていますが、市の人口規模を考えれば依然として大きな集客力です。人口約32万人の都市が、その4倍を超える来訪者を毎年受け止めている構図になります。

項目 内容
開園 昭和42年、1967年7月1日
敷地面積 151,998.56平方メートル
標高 170m
飼育規模 およそ100種類、650点ほど
入園者数のピーク 2007年度に307万人
直近の公表値 令和元年度に137万8900人

数字の出どころは旭川市が公開している旭山動物園の施設概要と、園の公式Q&Aです。年度によって数値は動くため、訪問前には最新の公表値を確認しておくと安心です。

旭山動物園で会える北海道だけの動物

ここからが本題です。園に「日本でここだけ」の珍獣はいなくても、北海道でしか野生では会えない動物を、その生息地の真ん中でまとめて見られる場所は多くありません。

園内には北海道の在来種のための施設がいくつも並んでいます。それぞれが、動物を見せる以上の役割を背負っています。

北海道の在来種を展示する園内施設の一覧表

シマフクロウは日本で北海道のみ

園内でもっとも重い存在が、シマフクロウ舎です。北海道庁が公開しているシマフクロウの解説によれば、シマフクロウは国内では北海道だけに生息する世界最大級のフクロウで、環境省のレッドリストで絶滅危惧IA類という、もっとも絶滅の危険度が高い区分に指定されています。

かつては北海道の広い範囲にいましたが、現在は知床、根室、十勝、日高、上川といった地域に分布が縮小しました。保護事業の積み重ねによって、道東を中心におよそ100つがい以上が確認されるところまで回復しています。回復の途上にある種であって、安泰になったわけではありません。

旭山動物園のシマフクロウ舎は2010年4月29日に完成しました。ただし当初はシマフクロウがおらず、オジロワシを展示していた期間があります。2012年の夏期開園と同時に、もうきん舎という名称を改めてシマフクロウの展示が始まりました。

施設のなかには高さ7mの擬木が立てられ、てっぺん付近には樹洞、つまり木の穴がつくられています。ここで巣をつくって繁殖できる構造にしてあり、単に見せるための箱ではないことが分かります。北海道の森を模した環境そのものが展示の一部です。

シマフクロウの生息地と絶滅危惧区分のまとめ

エゾシカの森が背負う二つの問い

2009年4月29日に完成したエゾシカの森は、旭山動物園のなかでも構想がはっきりしている施設です。この施設は、かつての北海道の自然を思い起こしながら、すでに絶滅したオオカミと、現在は害獣として扱われるエゾシカの問題を考え直すというコンセプトで設計されました。

エゾシカは北海道の各地で農林業被害や交通事故の原因になっており、駆除の対象として語られる場面が増えています。一方で、その増えすぎの背景には、天敵だったエゾオオカミが明治期に姿を消したという歴史があります。片方だけを見ても答えが出ない話です。

展示の目の前に立つと、まず大きさに驚きます。北海道に暮らしていると、車道脇や郊外の畑でエゾシカを見かける機会は珍しくありません。それでも、柵の内側で落ち着いて草を食む姿を正面から眺める体験は、道路越しに見る一瞬とはまったく別物です。

札幌や旭川の市街地からわずかな距離で、ヒグマやエゾシカの生息域と接してしまう。この近さこそが北海道という土地の特徴で、エゾシカの森はその現実を園内に持ち込んでいます。

北海道産動物舎の小さな在来種

2012年11月18日に完成した北海道産動物舎は、目立たないものの北海道らしさが凝縮された施設です。ここではエゾタヌキやエゾクロテンといった、道内に暮らしていてもなかなか正面から見る機会のない動物が飼育されています。

エゾクロテンの放飼場には、樹洞をイメージした木が設置されており、小さな窓がついています。姿が見当たらないときは、この小窓をのぞくと休んでいる様子を観察できる作りです。夜行性に近い動物の生活リズムを、来園者側が合わせて見にいく形になっています。

園内には北海道小動物コーナーもあり、エゾモモンガの専用施設などが用意されています。エゾモモンガは体長がおよそ15cmほどの小さな動物で、野生では夜明けや日没の短い時間帯にしか活動しません。野生で偶然に出会える確率は、かなり低い部類に入ります

展示の並びにも意味があります。ヒグマやシカのような大型の動物に目が向きがちですが、北海道の森を実際に支えているのは、こうした中型や小型の動物たちです。木の実を運び、虫を食べ、ほかの動物の餌にもなる循環の担い手を同じ園内で見られる構成は、生態系をひと続きの絵として理解する助けになります。

こうした在来種は、道外の動物園で見かける機会が限られています。北海道の固有亜種を、北海道の気候のなかで、まとまった形で見られる場所という点で、旭山動物園はほかで代えがききにくい存在になっています。

オオカミの森に本物がいない訳

園内にはオオカミの森という施設もあります。名前から、かつて北海道の山野を走っていたエゾオオカミを想像する人は多いはずです。ところが、ここで飼育されているのは北アメリカ産のシンリンオオカミです。

理由は単純で、エゾオオカミはすでに絶滅しているためです。明治期に家畜を襲う存在として駆除が進み、毒餌の使用や賞金の設定もあって、19世紀の終わりごろに姿を消したとされています。展示したくても、地球上のどこにも個体が残っていません。

オオカミの森は、その空白を埋めるための施設です。近縁の種を通じて、かつて北海道にいた捕食者の姿を思い起こしてもらうという意図が込められています。エゾシカの森と隣り合う配置も、偶然ではありません。

ここに、この園の性格がよく表れています。旭山動物園が見せているのは動物そのものより、北海道でこの100年あまりに何が起きたのかという記録です。珍しい生き物を並べる場所ではなく、土地の履歴を読ませる場所として組み立てられています。

エゾオオカミの絶滅とエゾシカの増加は、別々の出来事ではなくひとつながりの話です。オオカミの森とエゾシカの森を続けて見ると、その関係が体感として入ってきます。

旭山動物園にしかいない動物のよくある質問

ここからは、訪問を計画する段階で調べられることの多い疑問をまとめます。時期や料金にかかわる項目は年度で変わるため、最終確認は公式の案内でお願いします。

あわせて、旭川という都市そのものの位置づけについても触れておきます。

冬だけのペンギンの散歩はいつ?

旭山動物園の冬の名物が、ペンギンの散歩です。これは見世物として企画されたものではなく、雪の季節に運動量が落ちるペンギンの運動不足を解消するために始まった取り組みです。園内の決められたコースを、ペンギンたちが列をつくって歩きます。

実施の時期は例年12月下旬から3月中旬までで、積雪の状況に左右されます。雪が少ない年は開始が遅れることもあり、開催回数も変動します。1日2回行われることが多いものの、雪の状態によっては1回になる日もあります。

散歩に参加するのは主にキングペンギンです。歩くことを強制はしておらず、その日の体調や気分で列から外れる個体もいます。人間の都合で完璧に整った行進を見せない点も、行動展示という考え方の延長線上にあります。

ペンギンの散歩は雪の量で日程が動きます。冬に訪れる予定があるなら、出発前日に公式サイトの開催情報を確認しておくと空振りを避けられます。

旭川駅からのアクセスは?

旭川駅前の6番のりばから、旭川電気軌道の旭山動物園線41番と47番が出ています。所要時間は約40分、運賃は大人500円で、およそ30分間隔の運行です。駅から動物園までの距離は約11.3kmで、市街地から山側へ向かう形になります。

旭川空港からのアクセスは約14.5km、バスで約35分、運賃は大人650円です。ただし78番線は1日1往復のため、時刻の確認が欠かせません。自動車なら約25分、タクシーの料金はおよそ3,500円が目安とされています。

札幌市からは約152.0kmで車なら約2時間、新千歳空港からは約189.0kmで約2時間30分です。JRを使う場合は、新千歳空港駅から札幌駅まで約40分、札幌駅から旭川駅まで約1時間30分が目安になります。旭川市の公式アクセス案内に最新の情報がまとまっています。

この数字が示すのは、旭山動物園が秘境ではないという事実です。イオンと直結して都会駅に変貌したJR旭川駅から路線バス1本、40分。北海道の第2の都市の中心部と、シマフクロウやエゾヒグマの展示がその距離で並んでいます。

旭山動物園への出発地別の距離と所要時間

入園料はこれから変わる?

入園料は高校生以上が1,000円、中学生以下が無料という体系で運用されてきました。旭川市民には別枠の料金が設定されており、市民は700円という区分があります。中学生以下が無料という設定は、市立の施設らしい配慮です。

この料金について、2027年4月の夏期開園から改定される方針が示されています。報道によれば、高校生以上の市民が700円から900円へ、市民以外が1,000円から1,400円へと引き上げられる見通しです。7年ぶりの改定にあたります。

背景には施設の整備費用の増加や業務委託費の上昇があり、園が掲げるゼロカーボンの取り組みを広げるための原資という位置づけも示されています。改定の詳細は市の決定によるため、訪問時期が2027年以降になる場合は必ず公式の告知を確認してください。

開園時間は季節で切り替わります。夏期はおおむね9時30分から17時15分、冬期は10時30分から15時30分で、最終入園はそれぞれ早い時刻に設定されています。

周辺と組み合わせるなら、旭川市の観光と移動をまとめた案内が参考になります。ラーメンや家具の街としての顔も含めて、動物園だけで完結しない回り方が見えてきます。

旭山動物園にしかいない動物のまとめ

旭山動物園にしかいない動物という問いに、園は「珍しい動物はいない」と正面から答えます。世界中から希少種を集める路線をとらず、およそ100種類650点ほどという規模で運営されてきた園です。

その代わりにこの園が独占しているのは、1997年から磨いてきた行動展示という見せ方と、北海道の在来種をその生息地の真ん中でまとめて見せる構成です。シマフクロウ舎、エゾシカの森、北海道産動物舎、えぞひぐま館、オオカミの森が、それぞれ別の角度から北海道の100年あまりを語ります。

1996年に年間26万人まで落ち込んだ市立動物園が、2007年度に307万人へ届いた理由も同じところにあります。珍しさを買い集めるのではなく、手元にあるものの見せ方を変えたという判断が効きました。ここにしかいないのは動物ではなく、北海道をこう見せるという視点のほうです

そして忘れてはいけないのが距離です。旭川駅から約11.3km、バスで約40分。北海道第2の都市の駅前から1時間かからない場所に、絶滅危惧IA類のシマフクロウと、絶滅した捕食者の空白が並んでいます。都市と原生自然が食い込み合うこの近さこそ、北海道という土地の本当の顔です。札幌の円山動物園がある円山公園駅周辺と読み比べると、その構図がより鮮明になります。

旭山動物園を「珍獣に会いに行く場所」として訪れると、期待は外れます。「北海道の隣に何があるのかを確かめに行く場所」として訪れると、見えるものが一気に増えます。